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難治性脳疾患研究室について

当研究室は、アルツハイマー病などの認知症、統合失調症などの精神疾患の病態解明、早期診断、診療・ケアのための研究を行っています。ひいては、それが難病と言われるこれら疾患の有効な治療へ結びつけばという願いを込めて日夜、研究に励んでいます。
当研究室は、疾病の原因や発症機構がまだ全面的に解明されていない中枢神経系疾患に関する、山陰での一大情報発信研究施設を目指します。

室長
小西 吉裕 (臨床研究部長)

難治性脳疾患研究室の構成

アルツハイマー病研究部門
副室長 欠
ブレインバンク部門
副室長 小西 吉裕 (臨床研究部長)
客員研究員
  • 堀 映(福祉村病院長寿医学研究所名誉所長、ハノーバー医科大学終身教授)
  • 赤津 裕康(名古屋市立大学特任教授)
  • 植田 俊幸(鳥取県立精神保健福祉センター)
  • 三島香津子(鳥取大学保健管理センター 脳神経内科医)
  • 小枝 達也(鳥取大学地域学部教授)
  • 関 あゆみ(鳥取大学地域学部准教授)
  • 内山 仁志(国際医療福祉大学准教授)
  • 田中 大介(鳥取大学地域学部助教)
研究スタッフ
  • 荒木 紀帆 修士、鳥取大学大学院工学研究科 卒業
  • 安東 広美 修士、鳥取大学大学院農学研究科 卒業
当院倫理委員会で審議・承認された臨床研究、( )内は研究責任者
  1. アルツハイマー病における病態関連サイトカイン遺伝子の転写・翻訳の解析に関する国際共同研究、平成17年6月16日(小西吉裕)
  2. アルツハイマー病脳におけるBACEの発現とその発現細胞の同定に関する研究、平成17年6月16日(小西吉裕)
  3. アルツハイマー病脳におけるCD59の発現に関する研究、平成17年6月16日(小西吉裕)
  4. 施設入所高齢者における血清亜鉛濃度の検討、平成17年6月16日(小西吉裕)
  5. 施設入所高齢者と大学生の味覚障害、平成17年6月16日(小西吉裕)
  6. リサーチ・リソース・ネットワークにおける病理検体の提供 – 厚生労働省精神神経疾患研究委託費「神経・筋疾患と慢性精神疾患等のリサーチ・リソース(剖検脳等の組織)の確保とそのシステム整備に関する研究」の分担研究の展開として、平成19年2月27日(小西吉裕)
  7. 確保されたリサーチ・リソースとしての剖検脳からの凍結脳組織片、固定脳組織切片、培養細胞ならびに核酸・蛋白質バンクの確立 – 厚生労働省精神神経疾患研究委託費「神経・筋疾患と慢性精神疾患等のリサーチ・リソース(剖検脳等の組織)の確保とそのシステム整備に関する研究」の分担研究として、平成19年2月27日(小西吉裕)
  8. ヒト脳組織を用いての組織培養の展開とその分子生物学・生化学的解析、平成19年2月27日(赤津裕康)
  9. アルツハイマー病脳におけるα1-chimaerin発現に関する研究、平成19年12月5日(小西吉裕)
  10. アルツハイマー病脳におけるreticulon 3の発現に関する研究、平成19年12月5日(小西吉裕)
  11. アルツハイマー病脳におけるBACEの発現に関する米国Caucasianと日本人との比較研究、平成20年8月20日(小西吉裕)
  12. 統合失調症におけるBACE mRNA発現および蛋白・酵素レベルに関する研究、平成21年11月17日(小西吉裕)
  13. 認知症(アルツハイマー病等)の診断および認知症に関するバイオマーカーに関する研究、平成22年10月19日(小西吉裕)
  14. 精神科医療のニーズとアウトカムに関する研究、平成23年6月20日(松下幸生、黒木俊秀)
  15. 嗅粘膜組織由来の初代培養細胞を用いた神経変性疾患の診断の試み、平成23年9月21日(小西吉裕)
  16. Whole genome amplification法による貴重かつ希少なヒト死後試料からのトリプレット・リピートの証明、平成23年12月19日(小西吉裕)
  17. 嗅粘膜組織由来の初代培養細胞を用いた神経変性疾患の診断の試み(追加審議)、平成25年5月20日(小西吉裕)
  18. 認知症(アルツハイマー病等)の診断および認知症に関するバイオマーカーに関する研究(追加審議)、平成25年 12月16日(小西吉裕)
  19. 鳥取臨床科学研究会誌掲載論文の個人情報匿名化について、平成26年6月16日(小西吉裕)
  20. アルツハイマー病脳におけるBACEの発現に関する米国Caucasianと日本人との比較研究(追加審議)、平成26年12月15日(小西吉裕)
当院利益相反審査委員会で報告された臨床研究
上記の臨床研究課題のうち、#11、12、13、14については報告・審査されている。

研究室の様子

  • 臨床研究の風景
  • 臨床研究の風景
  • 臨床研究の風景

最近のトピック

2014年9月、私たちの研究「アルツハイマー病脳でのGDNF受容体発現とグルタミン酸による神経細胞死との関係」の成果が、Journal of Neuroscienceに発表されました。

Konishi, Y., Yang, L., He, P., Lindholm, K., Lu, B., Li, R. and Shen, Y. Deficiency of GDNF receptor GFRα1 in Alzheimer’s neurons results in neuronal death. J. Neurosci. 34, 13127-13138, 2014

シナプスを介する神経細胞間ネットワークは、脳機能の発達、成熟、維持、および修復には欠かすことのできないもので、神経栄養因子はその中で重要な役割を演じています。神経栄養因子はアルツハイマー病やパーキンソン病などの神経変性疾患の治療薬としての可能性について、よく論じられて来ました。その神経栄養因子の1つであるGDNF (glial cell line-derived neurotrophic factor) は、中脳ドパミン系神経細胞に対して生存促進作用を有する因子として発見され、米国ではすでにパーキンソン病に対する臨床治験も行われています。その後、GDNFは他の神経細胞にも作用することが判明しましたが、アルツハイマ-病での効果は知られていませんでした。 我々はまず、実際のアルツハイマー病の脳では、GDNF受容体alpha1 (GFRα1)の発現が低下していることを発見しました。しかも、健常高齢者の脳では、GDNFの刺激によってGFR alpha1の発現は高まりますが、アルツハイマー病脳では亢進しないことも判明しました。

X線CT室

大脳皮質神経細胞におけるGFRα1の発現(左がアルツハイマー病例、右がコントロール例。黄色の矢印はGFRα1抗体でラベルされない神経細胞を示す)

一方、グルタミン酸は、シナプスを介して神経細胞間ネットワークにおいて、情報伝達を担う重要な興奮性神経伝達物質の一つです。 グルタミン酸受容体を介して興奮伝達のみならず、記憶、学習、入力依存性の神経回路形成に関与し、また、様々な病態で起こる神経細胞死や、アルツハイマー病、統合失調症の病態にも深く関わっているとされています。アルツハイマー病では、グルタミン酸受容体が病的に過剰刺激されるために神経細胞障害が起こるとされ、従って、 NMDA 受容体拮抗薬メマンチンが、コリンエステラーゼ阻害剤(アリセプト)に代わる、もしくはそれと併用すべき治療薬として推奨されているのです。

そして興味深いことに、神経細胞に GDNF を添加する際、あらかじめAMPA 受容体や NMDA 受容体の機能を拮抗薬で阻害しておくと、GFRα1 の発現が、健常高齢者では抑制され、アルツハイマー病では反対に促進されることを見いだしました。よって、アルツハイマー病例には、GDNF 単独では無効かもしれないし、GDNF を効かすにはグルタミン酸受容体拮抗薬の併用がよいのかもしれませんが、適用患者を誤ると、反対の作用が出現するかもしれないことが推測されます。さらに、アルツハイマー病に対し、メマンチンなどのNMDA 受容体拮抗薬単独でも効きが悪いかもしれなく、GDNF との組み合わせが良いかもしれません。

アルツハイマー病研究部門

部門責任者
小西 吉裕 Yoshihiro Konishi, M.D., Ph.D.
小西吉裕顔写真
Head, Yoshihiro Konishi,MD,phD

当研究部門は、アルツハイマー病の発症機構を分子のレベルから研究しています。ひいては治療法開発に役立つ情報発信ができれば幸いです。

米国フロリダ州Roskamp Institute、アリゾナ州Banner Sun Health Research Institute、滋賀医科大分子神経科学研究センター、国立精神・神経センター神経研究所、福祉村病院長寿医学研究所(愛知県豊橋)、東京都健康長寿医療センター、福島医科大学精神医学講座、東北大学加齢医学研究所等と共同研究を行っています。

職歴

平成元年 国立精神神経センター神経研究所研究員
(ヒューマンサイエンス科学振興財団流動研究員)
平成4年 シカゴ大学薬理生理学部門研究員
(長寿科学振興財団海外派遣流動研究員)
平成9年 川崎医科大学神経病理講師
平成10年 アリゾナ州Sun Health Research Institute研究員
平成14年 美作大学助教授
平成17年 滋賀医科大学分子神経科学研究センター客員准教授
平成19年 国立病院機構鳥取医療センター臨床研究部長

研究内容

アルツハイマー病の分子病態の解明
神経栄養因子、ブレインバンク、アルツハイマー病の早期診断のためのバイオマーカー開発
アルツハイマー病関連の国際英文誌のreviewer、海外のアルツハイマー病や自然科学研究関連財団のgrant reviewerを務めています。

所属学会

Society for Neuroscience(米国)、ISTAART(米国)

主な業績

研究費
文科省、厚労省、ヒューマンサイエンス振興財団、長寿科学振興財団、内藤記念科学振興財団、小林孫兵衛記念医学振興財団、成茂科学神経科学研究基金、米国Alzheimer’s Associationなど
学会発表
免疫学会、薬理学会、内藤国際カンファレンス、Taniguchi Symposiaなどにシンポジストとして発表。研究結果はInternational Conference on Neuroimmunomodulation (Bethesda)、International Conference on Alzheimer’s Disease (Washington, DC)でシンポジウムに取り上げられた。
主な論文発表

Neuron 4, 429, 1990.  J. Biol. Chem. 268, 11208, 1993

Int. J. Dev. Neurosci. 13, 241, 1995.  Ann. N.Y. Acad. Sci. 840, 107, 1998

J. Neurosci. 22, 3025, 2002.  Am. J. Pathol. 161, 1567, 2002

J. Neurosci. 24, 1760, 2004.  Neuropathology 25, 220, 2005(以降は下記)

最近の研究業績

Award 受賞
- 米国Alzheimer’s Associationから2008年A new Investigator Research Grant Awardを授与
共同研究事業
- 東北大学加齢医学研究所共同研究「アルツハイマー病病態へのα1-chimerinとアミロイド相互作用機序の関与(平成23年度、25年度)
- Alere, Inc., Blanchette-Rockefeller Neuroscience Institute「アルツハイマー病の診断におけるERK AD-Index 臨床実現可能性試験」(平成22、23、24年度)
国際学会発表
- Alpha1-chimaerin protein can interact with beta-amyloid peptides and is expressed at reduced levels in Alzheimer’s brain. (第11回国際アルツハイマー病学会、平成20年7月、アメリカ・シカゴ)
- Real-time PCR analysis of cytokine expression profiles in non-demented patients with increased Alzheimer’s disease pathology. (第12回国際アルツハイマー病学会、平成21年7月、オーストリア・ウイーン)
- Characterization of primary human astrocyte cultures after successive subculturing from autopsied Alzheimer brain. (Annual Meeting of Society for Neuroscience USA、平成21年10月、アメリカ・シカゴ)
- The possibility to reposit primary astrocytes from autopsied brains of Alzheimer’s disease patients for further research.(第13回国際アルツハイマー病学会、平成22年7月、ハワイ・ホノルル)
- The involvement of both precursor and mature oligodendrocytes in remyelination following ethidium bromide-induced demyelination in the mouse spinal cord.(Annual Meeting of Society for Neuroscience USA、平成22年11月、アメリカ・サンジエゴ)
- The interaction of β-amyloid with α1-chimaerin involved in the pathogenesis of Alzheimer’s disease. (第14回国際アルツハイマー病学会、平成23年7月、フランス・パリ)
- Differential expression of TNF receptors between the temporal and cerebellar cortices of Alzheimer’s disease patients, in comparison with alterations in TNFα expression(Annual Meeting of Society for Neuroscience USA、平成23年11月、アメリカ・ワシントン, DC)
- 第14回滋賀医科大学分子神経科学研究センター国際シンポジウム「New insights into the treatment of neurological diseases: ”Expression profiles of cytokines in the brain of Alzheimer’s disease patients”」(平成24年2月、大津)
- The comparison of β-secretase between Alzheimer’s disease and other neuropsychiatric disorders in Japanese patients. (第15回国際アルツハイマー病学会、平成24年7月、カナダ・バンクーバー)
- Differential expression of TNFα and its receptors between vulnerable and resistant regions of Alzheimer's brain(Annual Meeting of Society for Neuroscience USA、平成24年10月、アメリカ・ニューオリンズ)
論文発表
- Multiple cytokines are involved in the early events leading to the Alzheimer’s disease pathology. Tottori J. Clin. Res. 2008, 1, 359-396
- Cytokine expression profiles in the brain of non-demented control patients with increasing Alzheimer’s disease pathology, in comparison with normal control and Alzheimer’s disease patients. Tottori J. Clin. Res. 2008, 1, 152-168
- Expression of reticulon 3 in Alzheimer’s disease brain. Neuropathol. Appl. Neurol. 2009, 35, 178-188
- Expression and localization of lactoransferrin mRNA in the cortex of Alzheimer’s disease. Neurosci. Lett. 2009, 452, 277-280
- Immunocytochemical characterization of highly passaged primary astrocytes cultures from autopsied aged human brain. Tottori J. Clin. Res. 2009, 2, 121-141
- The involvement of both progenitor and mature oligodendrocytes in remyelination following ethidium bromide-induced demyelination in the mouse spinal cord. Tottori J. Clin. Res. 2009, 2, 245-255
- Infiltration of T lymphocytes and expression of ICAM-1 in the hippocampus of patients with hippocampal sclerosis. Acta Histochem. Cytochem. 2010; 43:157-162
- Expression profiles of cytokines in the brains of Alzheimer’s disease (AD) patients, compared to the brains of non-demented patients with and without increasing AD pathology. J. Alzheimer Dis. 2011, 25, 59-76
- Expression and localization of Mitochondrial ferritin mRNA in Alzheimer’s disease cerebral cortex. PLoS ONE 2011, 6(7)
- Forschungstrends bei klinischen Versuchen betreffs neurotrophischer Faktoren für Alzheimer Krankheit. Tottori J. Clin. Res. 2011, 4, 79-84
- Diagnostic de la malade d’Alzheimer á l’aide de matériaux autres que les tissus cérébraux et le liquid céphalo-rachidien. Tottori J. Clin. Res. 2011, 4, 85-92
- Cerebrospinal fluid biomarkers for the diagnosis of Alzheimer’s disease. Tottori J. Clin. Res. 2011, 4, 172-185
- Reduction of β-amyloid accumulation by reticulon 3 in transgenic mice. Curr. Alzheimer Res. 2013, 10, 135-142
- Differential expression of type 1 and 2 receptors for TNF-α in neurons and microglia from Alzheimer’s disease and normal healthy elderly control brains. Tottori J. Clin. Res. 2013, 5, 143-153
- Deficiency of GDNF receptor GFRα1 in Alzheimer’s neurons results in neuronal death. J. Neurosci. 2014, 34, 13127-13138

研究課題

1. アルツハイマー病脳内でベータ・セクレテース酵素は本当に発現亢進しているか?
活性値の測定グラフ
日本人症例で、認知症のない高齢者(NDNC)、認知症のない他 の神経疾患(NDOND)、アルツハイマー病(AD)、および精神疾患の脳の側頭葉皮質でのベータ・セクレターゼ(BACE)の活性値を測定した。参考ま でに、我々が行った米国人での健常高齢者(ND)とADでの比較も示した。 *, P<0.05
アルツハイマー病の患者さんの脳に多くみられる老化のシミである「老人斑」の主成分はベータアミロイドという蛋白で、これはアミロイド前駆体蛋白質APPにベータ・セクレターゼ、ガンマ・セクレターゼという酵素が順次作用することで出来ます。ですから、この2つの酵素の作用を弱めたりすれば、ベータアミロイドはできないわけです。
現在、世界中、とくに米国の科学者や製薬会社が、この酵素活性を調節する薬を血眼で開発中です。それは、基本的に、アルツハイマー病の脳で、ベータ・セクレターゼ酵素活性が実際に上がっていると報告されているからです。しかし、大きな問題は、この酵素活性が上がっているという報告は、ほとんどが米国白人の脳を使った研究によるものです。
アルツハイマー病の発症には、遺伝的要素のほか、生後の環境因子、生活習慣、生活環境などが重要な因子とされていますから、それらがベータ・セクレターゼの発現に影響している可能性は否定できません。ベータ・セクレターゼの発現は、我々が調べた限りでは、日本人のアルツハイマー病の脳では米国白人例ほど亢進していない、というデータを得ています。mRNA、蛋白レベル、酵素活性を測定した結果です。現在、米国人と日本人でのデータの違いが、果たして生後の環境因子、生活習慣、生活環境、生活習慣病によるものか、解析中です。
2.α1-chimaerinにアミロイドが結合するのが、本来のアミロイドの機能?
研究論文イメージ
共同研究者である滋賀医科大学分子神経科学研究センターの遠山育夫教授らはα1-chimaerinという物質がアミロイドに結合することを見出しました。アルツハイマー病の脳では、実際に、このα1-chimaerinの発現が低下しています。これは間もなく、論文として出版されます(Neurosci.Lett.)。

脳における β-amyloid peptide (Aβ) の産生・凝集・沈着はアルツハイマー病にみられる特徴的な病的変化ですが、Aβが本来果たすべき生理学的役割や代謝経路は完全には解明されていないのが現状です。Aβが何らかの分子と相互作用しその機能を調節するのが本来の Aβ の生理機能の1つとも推測できます。このような分子の探索を行い、その生理作用,両者の相互作用を解明する研究は、アルツハイマー病の分子病態解明及び治療法の開発に新たな道を開くことになります。

以上の理由により、滋賀医科大学分子神経科学研究センターの遠山育夫教授らは、Aβ と結合するタンパク質を同定しその機能を解析することを目的に、 human brain cDNA library をスクリーニングし分子の探索を行いました。その結果、α1-chimaerin をコードするクローンを同定しました。既知の分子でしたが、 Aβ との相互作用は報告されていませんでした。α1-chimaerin は、RAS 関連 p21(RAC) に対する GTPase 活性化タンパク質 (GTPase-activating protein: GAP) で、神経細胞特異的です(Lim et al., Biochem J 287, 415, 1992)。

α-chimaerin には 2 つの isoform があります。α2-chimaerin においては、N末端領域と SH2 ドメインを介して C1 ドメインと相互作用し自己抑制することが知られているます(Colön-González et al., J Biol Chem 283, 35247, 2008)。この自己抑制は EGFR などの活性化により解かれ、C1 ドメインを露呈させるシグナルを出すとされています。しかし、α1-chimaerin は上記 N 末端領域と SH2 ドメインを持たないため、α1-chimaerin を不活性型として保持するような α2-chimaerin とは別の機構が存在することが示唆されます。そこで、私たちはこれまでの結果から、Aβ がそのメカニズムに関与する可能性があるのではないかと推測しまた。Aβ と α1-chimaerin の相互作用機構と、それによるα1-chimaerinの機能異常や細胞の形態・機能的な変化を明らかにし、新たな Aβ の機能としての α1-chimaerin の活性調節、ひいてはα1-chimaerin のAD における神経細胞死の病態への関与のメカニズム解明に迫るべく、滋賀医科大学分子神経科学研究センター、京都大学大学院生命科学研究科、東北大学加齢医学研究所との共同研究を進めています。
3.Expression levels of TNF-α receptors in the brain of Alzheimer’s disease (AD) patients compared to the brains of non-demented patients with and without increasing AD pathology:
Tumor necrosis factor-α (TNF-α) is involved in the inflammatory process of Alzheimer’s disease (AD). Biological effects of TNF-α are exerted by its binding to TNF receptor type 1 (TNFR1) and type 2 (TNFR2). The studies using transgenic mice suggest that TNF-α and its receptors are associate with neurodegeneration and neuroprotection. Recently, it was reported that TNFR levels were different between the frontal cortices of AD and normal controls. To address whether TNFR-mediated signaling contributes to AD pathological changes and to the mechanism underlying the protection of the cerebellum against AD pathology, we investigated the expression levels of TNFRs in the temporal cortex (vulnerable area) and cerebellum (resistant area) of AD, high pathology control (HPC) and non-demented (ND) patients.

Fig. Double immunofluorescence of TNFR1 (TNFR-I) or TNFR2 (TNFR-II) and neuronal class III β-tubulin (βIII) in primary neurons isolated from the AD brain.

The isolated cortical neurons from the AD brain were maintained in vitro with and without exposure to Aβ, fixed, and incubated with primary antibodies raised against human soluble TNFR1 or 2 and class III β-tubulin for double immunofluorescence. The positive labeling was visualized with Cy 3 and FITC, respectively. TNFR1 and 2 were recognized in some βIII-positive neurons.

4.剖検脳からアストロサイト培養は可能か?
アルツハイマー病に限らず、ヒト脳の多くの疾患の研究にマウスやラットが使われています。これら動物を使用する理由はいろいろありますが、概して、マウスで実験して良い結果が得られたら満足している研究者が多いのは事実ですし、しかも使用している研究材料が脳由来ではなく、末梢神経、皮膚や腎臓などであることが多いのが現状です。しかし、我々はヒトの病気を研究しているのであり、マウスの病気を研究しているのではありません。現在、アルツハイマー病に対する多くの治験が失敗に終っていますが、それは、動物実験で目覚しい効果があった新薬をヒトに応用してあまり効きが良くないという現実にも表れています。ヒトの老化に関係して発症するアルツハイマー病などの疾患を研究するには、「ヒト由来」「脳由来」「正常な発育・老化をした個体由来」「対象疾患の発症年齢あたりの個体由来」「対象疾患の脳内好発部位由来」の試料でなくては、本来はいけないはずです。

そのような考えから、私達は米国Sun Health Research Instituteにて、死後短時間しか経っていない(4時間以内)剖検脳から、生きたまま成熟神経細胞の分離とin vitroでの維持をはじめ、ミクログリア、アストロサイト、オリゴデンドロサイトの初代培養を行ってきました。

このような培養は世界どこでも可能という訳ではありません。私達は、とくにマウス新生仔からのアストロサイトは凍結保存が可能なことから、死後剖検脳からの初代培養アストロサイトも長期間培養しても、凍結保存を繰り返しても、アストロサイトとしての性格を維持するのか否か、つまり、cell bankとして凍結保存し世界中へ供与できるのか否か検討しています。
5.次の挑戦: Diagnosis of Alzheimer’s disease using biopsy-derived skin fibroblasts
(collaboration study with Blanchette-Rockefeller Neuroscience Institute, Morgantown, WV, USA) Patients suffering from Alzheimers disease (AD) occupy approximately 60% of the elderly patients with dementia. There are more than 21 million patients with AD in the world; however, we do not have definitely effective therapies for AD. To develop such effective therapies, we need to have reliable diagnostic methods to find latent patients having AD as early as possible; that is, we need AD biomarkers based on molecular pathological mechanisms of AD that are highly sensitive and specific, inexpensive, and easily accessible and low invasive to patients. Therefore, we have planned to seek such biomarkers using fibroblasts from skin biopsies of patients.

ブレインバンク部門

部門責任者
小西 吉裕 Yoshihiro Konishi, M.D., Ph.D.

統合失調症の脳の断面図
嗜銀顆粒性認知症(DG)と考えられた高齢者認知症の1剖検例
(左:側頭葉内側面 の高度の萎縮、右:前帯状回のgrains)

当医療センターは、国立精神・神経センターと国立病院機構が共同して運営する我が国最大のブレインバンクであるRRN (Research Resource Network、プロジェクト責任者:齊藤祐子 国立精神・神経センター病院臨病理医長)の一員です。2014年末にて、1,880件の研究使用のための凍結脳が登録され、加えて、生検筋肉や精神疾患患者のゲノムDNAも多数登録されています。凍結脳の内訳は、amyotrophic lateral sclerosis 227例、Alzheimer disease 99例、schizophrenia 97例、Parkinson disease 96例、multiple system atrophy 99例、myotonic dystrophy 61例、progressive supranuclear palsy 56例、Duchenne muscular dystrophy 48例、Lewy body disease 31例、CJD 36例、脊髄小脳変性症26例、DRPLA 21例、Machado-Joseph病 20例、Huntington disease 18例などです。また当院にも、Alzheimer disease、Parkinson disease、multiple system atrophy、PNLA、DRPLA、PSP、SSPE、統合失調症、Menkes disease、Binswanger disease、Kennedy-Alter-Sung症候群等、研究利用可能な凍結脳が保存されています。厳正な倫理委員会の審査の上で、これらの剖検脳は研究使用のために保存され、病態解明や治療法開発のために使用されています。亡くなられたご本人には役には立ちませんが、同じ病気で苦しんでおられる方々に、1日でも早く特効的治療法が見つかることを信じて、ブレインバンクを運営しています。

さらに、当医療センターは、我が国で最も歴史が古く、世界中に剖検脳を研究用に提供し続けている福祉村病院長寿医学研究所ブレインバンク(責任者:赤津裕康 研究所副所長)、および、保存脳の数ではRRNに肩を並べ、健常高齢者脳をも有する東京都健康長寿医療センター高齢者ブレインバンク(責任者:村山繁雄 ブレインバンク部長)、死後の献脳に基づくブレインバンクである精神疾患死後脳バンク(責任者:丹羽真一 福島県立医科大学医学部精神医学講座教授)と共同研究を行っています。長寿医学研究所の名誉所長の堀映先生は、当院臨床研究部に在籍されていましたし、副所長の赤津裕康先生ともに、当臨床研究部の客員研究員です。新鮮剖検脳から、アストロサイトなどの生きた細胞をin vitroで維持できる体制作りをしています。生きた細胞でないと、新しく開発された治療薬の本当の薬理効果はわかりません。

また、世界的に広く知られている米国アリゾナ州Sun Health Research Institute brain bankとも、アルツハイマー病の共同研究を行っています。

astrocyte

新鮮剖検脳から培養したアストロサイトとして初代培養された細胞。GFAP抗体に陽性を示す。しかしながら、fibronectin、nestin、vimentin抗体でも陽性である。果たして、これはアストロサイトであろうか?

最近の脳剖検例

CJD、MSA、schizophrenia、argyrophilic grain diseaseなど。

最近の講演

平成24年2月14日、ブレインバンクでは世界的に名が知られ、米国のアルツハイマー病の神経病理の中心的病理学者の1人でもあるBanner Sun Health Research Institute (Sun City, AZ, USA)のDr. Thomas G. Beach (MD, PhD)をお招きし、”A cholinergic-amyloid-tau fusion hypothesis: Evidence from animal and human studies”というタイトルで講演頂きました。

平成26年のRRN研究班会議では、生前アルツハイマー病と診断され、剖検にて神経原線維変化型老年期認知症(NFTD)+嗜銀顆粒性認知症(DG)と考えられた高齢者認知症の1剖検例、を発表しました。

論文発表

- A brain bank in the U.S.A. based on brain donation. Tottori J. Clin. Res. 2008, 1, 199-211
- MRIでMarchiafava-Bignami病が疑われた多発性脳梗塞の1剖検例. 鳥取臨床科学 2008, 1, 380-396
- Immunocytochemical characterization of highly passaged primary astrocytes cultures from autopsied aged human brain. Tottori J. Clin. Res. 2009, 2, 121-141
- 統合失調症患者の病理解剖の意義 – 転移性肝癌で死亡した統合失調症の一剖検例を通して –. 鳥取臨床科学2010, 3, 91-114
- 球脊髄性筋萎縮症(ポリグルタミン病)の1剖検例. 鳥取臨床科学 2011, 4, 93-108
- Whole genome amplification 法による希少なヒト死後組織からのゲノム遺伝子におけるCAGリピートの証明. 鳥取臨床科学 2013, 5, 45-53